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第451号 1995(H7).06発行

PDF版はこちら 第451号 1995(H7).06発行

 

 

シクラメンの直接定植栽培法

東京農業大学 厚木中央農場
井上 知昭
小池 安比古

生育制御の考え方

 植物生産,特に鉢もの栽培では播種した植物を小鉢で育苗し,生育に応じて順次大鉢に替えていくといった肥培管理で植物の生育を制御してきた。こういう栽培方法は短期間に生産ができ,しかも高品質・多収穫が可能であるが,反面,生産費が高く高価格商品となりやすい。

 今後の花き生産は,「新鮮・安全・高品質・多収穫」のほかに「低価格・ファッション性」がキーワードとなる。

 こうした状況のなかで,研究・実学教育に携わる者として植物の発育を制御する意義を模索している。

 植物の発育を制御する方法は,大別して二通りあると考えられる。一つは積極的に植物を制御する方法で,その最たるものは完全制御型の植物工場のようなものになると考えられる。現状では,発育の好適範囲が狭く,不良環境では能力を発揮できない。また,好適範囲では発育が早く,高品質や多収穫が可能な植物に適用されるものと考えられる。

 もう一つは,ゆるやかな制御,植物が本来持っている環境適応力をうまく引き出し,植物を生産する。積極的に制御しても経済性の少ない植物がこれに相当する。

 鉢もの栽培で鉢替えを繰り返し,最適な時期に適切な肥培管理をすることは積極的に植物の生育を制御する考え方である。特に最近の播種から鉢あげ,出荷までを自動化する技術は,いわば前述の完全制御型の生産方法であり,積極制御・多投資エネルギー型の栽培を意味するものである。しかし,技術的にはシステムとして完成しても,経済性の面ですべての植物に適用することは不可能である。

 そこで,むしろ省力化,省エネルギーの観点から,ゆるやかな制御で植物を生産する技術も重要になると考える。

直接定植栽培法

 従来の鉢替え作業は,培地の物理性の維持をはかること,養分の補給,草姿をコンパクトに維持すること,栽培期間中の施設占有面積を少なくできること等から行なわれている。

 その反面,鉢替え回数が多くなると一時的に労力を多く要すこと,鉢替え時期が遅れると根づまりや草勢が衰えること,植え替え時の断根等による生育障害が起こること等がみられている。

 この鉢替えの欠点を解消し,ゆるやかに生育を制御する方法の一つとして,直接定植栽培法について研究をすすめている。

 これは,省力化・少投資エネルギーを前提とした考え方で確立した栽培方法ではないので,基本的な考え方を中心に述べる。

 シクラメンを5号鉢で出荷する場合は1月中旬に播種し,発芽後3~4葉展開した苗を5号鉢に直接定植し,開花まで鉢替えをせず栽培管理をし,そのまま出荷する方法である。(写真1,2)

 栽培のポイントは,培地の物理性が好適範囲になるように用土の配合を規定する。その際,植物に必要な1作分の施肥量を全量基肥として施用する。定植後の生育の調節は給水を基本として行うものである。なお,給水は点滴給水法や底面給水法とも可能である。

①用土(配合土)の物理性

 鉢替えをしなくて草姿をコンパクトに維持するには,用土(配合土)の物理性に注意を払う必要がある。定植時の物理性を好適にするとともに,長期間にわたり物理性の変化が少ないような培地素材や管理も必要になってくる。

 物理性の目安として,かん水後に水分を最大保持している状態の時に,どの程度鉢土内に酸素が存在しているかがポイントの一つとなる。

 慣行プラスチック鉢栽培では,低水分張力(多水分)の状態(pF1.0)の鉢土における空気孔隙量とシクラメンの生育の関係は,孔隙量10%以下では生育量は小さく,10~20%まではほぼ直線的に増加し,30%以上では抑制されることが確認されている(三浦1987)。

 このことは直接定植栽培法でも,ほぼ同様な結果が得られた。図1は下水焼却灰土(ハマソイル)とピートモスの配合土を用いた培地で試験をした結果である。定植時のpF1.0気相率と開花期の葉数との関係をみると,葉数は20~30%で最大となる2次曲線的な増加を示した。気相率がほぼ20~30%の範囲であると開花時の葉数が多く,気相率が高くても低くても葉数が少なくなる。

 すなわち,定植時の配合土の物理性を規定すれば,開花時まで比較的生育が良好となる。これは,点滴・底面ひも給水のいずれの給水方法でも同様である。

②施肥法

 一般的には植物の生育に見合った養分量を適期に施肥するのが原則となる。液肥を主体とした養液管理で,装置化すれば比較的容易にできるが,養液濃度管理を緻密に行う必要があること,液肥を施用すると底面給水法では藻類が発生しやすいことがあげられる。

 もう一つは1作当たりの施肥量を基肥として施用し,追肥は必要最小限にとどめる方法である。

 緩効性肥料が主体の施肥法となる。気温等の環境の影響を受け,的確に管理できにくい面はあるものの,施肥の省力ができること,底面給水でも藻類が発生しにくいことがあげられる。

 省力栽培の観点から緩効性肥料について検討している。緩効性肥料では,定植(4~5月)後,夏期高温時に養分の供給割合が高くなることが懸念される。そこで,当農場の温室内気温と時期別に植物の生育に合う養分供給が可能な肥料を求めていたところ,被覆肥料であるロング(被覆燐硝安加里)360タイプが夏~冬期までの養分溶出割合が比較的一定していることが分かった。

 施肥量については,用土1ℓあたりロング360タイプ8g(N成分約1g)にリン酸分のみを加え,基肥のN:P:Kの比率を1:2:1とすると,追肥もせず栽培可能であることが数年の栽培で確認された。もちろん,条件によって溶出速度が異なるので, 実際栽培の場合は追肥が必要なこともある。現在,施肥量について更に詳しく検討中である。

 なお,堆肥等有機物を使用しない配合土では,微量要素欠乏症がでやすいが,このような場合は微量要素入りロングを使用することで欠乏症は回避できることを確認した。(写真3)

③給水方法

 小苗をいきなり大鉢(出荷鉢)に定植するので,当然土壌水分が多ければみかけの生長量は大きくなるが,軟弱・徒長・大葉の傾向となり,商品性がなくなってしまう。

 そこで,何らかの形で給水制限を行い,生育を調節する必要がでてくる。従来の栽培法は,生育に応じて鉢替えを行なっている。これは,気象条件等を除外すれば,鉢サイズと鉢土量とそれに相応した給水量と施肥量が生育量を調節しているとみてさしつかえない。

 鉢替えと生育の関係をみると(図2),鉢替えで鉢土量が多くなるほど1回(1日)あたりの給水量は多くなり,それに比例して生育量は多くなっていくものとみられる。

 このことは,小さい苗を最初からどんなに大きな鉢(鉢土量)に植えても,その植物に必要な量しか与えない養水分管理をすれば,鉢替えをした植物と同様に生育し,コンパクトな草姿が期待できることを意味する。

 つまり,直接定植栽培法では3号鉢に植える苗の大きさの時には3号鉢に必要な給水量を与え,植物が成長するに従い,順次給水量を多くすれば良いことになる。

 実際にシクラメンを5号鉢に直接定植した場合点滴給水では1回あたりの給水量は3~4葉期の定植直後では20~30mlと少なく,順次増加し,開花期ではほぼ70~100mlと多くすると,生育が順調となる。底面ひも給水でも試験中であるが,同様な考え方で栽培可能である。

 また,手かん水等で鉢土表面を鎮圧するようなかん水方法は,物理性を悪化させやすいので点滴給水や底面給水が適する。

 このように,直接定植栽培法は,好適物理性の設定,給水方法,施肥の単純化等を組み合わせ,省力・省資源の観点から研究をすすめている。

 今後はいかに,単純化して,生育制御を少なく植物を栽培できるかが,課題である。また,こうした技術開発が,栽培システムの自動化のためにも必要であると考えられる。

参考文献

●井上知昭・他4名.1992.底面給水によるシクラメンの直接定植栽培法 園学雑61別 1:406-407

●井上知昭・他4名.1992.点滴給水によるシクラメンの直接定植栽培法 園学雑61別 1:407-408

●井上知昭.1993.鉢サイズ,鉢替え回数と養分管理.農業技術体系花卉編 2:343-344

●三浦泰昌.1987.花卉の栄養生理と施肥 84-93 農文協

 

 

カルシウム栄養条件とトマト青枯病抵抗性

農林水産省 野菜・茶業試験場
環境部 山崎 浩道

1.はじめに

 各地の野菜産地では種々の経営的理由から,単一作物の連作が広く行われ,連作障害の発生が恒常化している。野菜試のアンケート調査(1984)によれば,連作障害の主因は土壌病害であり,ナス科作物の青枯病,アブラナ科作物の根こぶ病など多くの土壌病害が各地で大きな問題となっている。

 現状では多くの産地で薬剤による土壌消毒と抵抗性品種・台木を用いた栽培により土壌病害を回避することが広く行われているが,その効果は必ずしも完全ではなく,逆に深刻化している例も見受けられる。また,土壌消毒剤は環境保全等の観点から今後,使用を規制される可能性があり,抵抗性品種・台木の利用についても抵抗性の喪失が一部で認められるなど将来的に多くの問題を抱えており,新たな連作障害・土壌病害対策技術の確立が急務となっている。

 一方,野菜畑土壌では多肥に起因する土壌養分富化およびアンバランス化が広く認められており,いわゆる有機栽培においても有機物多投による養分富化の事例がみられる。これらは作物の生育阻害や生理障害等の形で作物生産に被害をもたらしているが,それ以外にも作物に潜在的なストレスを与えているものと予想される。

 上記のような,連作に伴う土壌病害の発生と土壌養分富化・アンバランス化による作物栄養ストレス状況との間には密接な関係があると考えられ,不適切な肥培管理により作物体内の栄養条件が攪乱され,発病が助長され?J現象を「栄養病理複合障害」(図1)と呼んでいる。これについては,土壌肥料学と植物病理学との境界分野であるため我が国では研究事例が数少ない。しかしながら,その現象を解明し,養分管理による病害制御技術を開発することは今後,新たな連作障害・土壌病害対策技術を確立する上で重要となろう。

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 そこで本稿では,その一例として,各種病害の発病に関与することが知られているカルシウム(Ca)栄養条件と病害抵抗性との関係について,これまでの知見を概説するとともに,筆者等がトマト青枯病抵抗性を対象に行った研究を例に解説する。

2.Ca栄養条件と病害抵抗性

 石灰資材施用が多くの病害の発生に影響を与え,おおむね抑制的に作用することが古くから知られている。この場合,そのメカニズムとしては以下の3つの可能性が考えられる。

①施用された成分が直接,病原菌に作用し,その密度,活性などに影響を与える場合
②施用によって生ずる土壌pHの変化等の二次的な要因が作用する場合
③作物の養分吸収による栄養条件の変化が病害抵抗性を変化させる場合

 例えば,消石灰,石灰窒素等はそれ自体に殺菌効果を持ち,古くから病害防除に利用されてきた。また,アブラナ科作物の根こぶ病では土壌の高pH条件下で発病が抑制され,産地では石灰施用が広く行われている。逆にジャガイモそうか病では高pH条件で著しく発病が促進されるため,石灰無施用による低pH管理が行われている。これらの石灰資材の直接的効果やpHを介した効果の他に,上記③にあたる作物Ca栄養条件の変化による病害抵抗性の変化が広く認められる。

 これまでの研究例では,トマト萎ちょう病,メロンつる割病,トマトかいよう病,バラ,トマト,ナス,トウガラシ,キュウリの灰色かび病,アブラナ科根こぶ病,各種作物の苗立枯病,タマネギ黒かび病,リンゴ,ジャガイモの数種貯蔵病害などで作物のCa栄養条件が発病に関与することが示されており,いずれも作物体内へのCa吸収が高まった場合に発病が抑制される。

3.Ca栄養条件とトマト青枯病抵抗性

(1)青枯病発生の現状

 Pseudomonas solanacearumによる青枯病はトマトなどのナス科野菜のほか,100種以上の植物を侵す多犯性の土壌病害である。日本でトマト,ナスなどの難防除病害となっているほか,世界的にも熱帯・亜熱帯地域で深刻な被害をもたらしている。現在,抵抗性台木を用いた接ぎ木栽培が対策として広く行われているが,それらの抵抗性は必ずしも完全ではなく,最近では接ぎ木栽培での発病が全国各地で大きな問題となっている。

(2)Ca栄養条件とトマト青枯病の発病

 上記のような抵抗性品種の発病にCa栄養条件が関与するものと考え,以下の試験を行なった。

 青枯病抵抗性の異なるトマト3品種(罹病性:ポンデローザ,中程度抵抗性:瑞栄,高度抵抗性:Hawaii 7998)の苗を水耕法で培養液Ca濃度を3段階(低Ca区:0.4mM,標準Ca区:4.4mM,高Ca区:20.4mM,各pH5.8)に設定して栽培し,青枯病菌を接種した。

 接種時におけるトマトの葉のCa含有率は培養液Ca濃度に対応しており,作物体のCa栄養条件が変化したことを示している(表1)。

 各品種の発病経過を図2に示した。罹病性品種では接種後4日目以降,速やかに発病・枯死したのに対し,中程度抵抗性品種では発病がCa条件によって大きく異なり,低Ca区で高度に発病が認められたが,高Ca区ではほとんど認められなかった。また,高度抵抗性品種では標準Ca区,高Ca区で抵抗性が発揮され,試験期間中全く発病がみられなかったが,低Ca区では高頻度に発病がみられた。

 このようにトマト青枯病に対する抵抗性の発現はCa栄養条件の影響を強く受け,低Ca条件で抵抗性が低下し,高Ca条件で高度に発揮されることが明らかとなった。

(3)Ca栄養条件と青枯病菌の増殖

 上記と同様に栽培・接種したトマトの茎内における青枯病菌密座を選択培地により計数した結果,品種の抵抗性が高まるほど,また,培養液Caの濃度が高まるほど菌密度が低下する傾向がみられた(表2)。

 しかし,それらの差は発病差ほど大きくなく,全く発病が見られない場合においても青枯病菌がある程度の密度で生存していた。したがって,Ca栄養条件による抵抗性の変動にはCaを介した菌の増殖抑制が関与するものと推定された。

(4)Ca栄養条件による抵抗性変動のメカニズム

 これまでに細胞壁へのCaの結合による細胞壁構造の強化,Caによる細胞膜機能の維持,病原菌の細胞壁分解酵素活性の阻害,エチレン生成の関与などがCaによる発病抑制の機構として推定されてきたが,現在のところ詳細は全く不明である。

 一般に病害抵抗性にはファイトアレキシンなどの抗菌性物質の生成や過敏感反応等が大きな役割を果たすことが知られているが,青枯病抵抗性の機構については未だに不明の点が多い。

 しかし,上記のように抵抗性の発現がCa栄養条件に依存し,かつ高Ca条件下での無発病の抵抗性品種においても菌がある程度の密度で生存している現象は非常に興味深い。このような抵抗性品種のいわゆる「潜在感染」は他の青枯病抵抗性品種についてもみられる。

 これらのことから,青枯病抵抗性には病原菌の増殖・移動を制限する何らかの植物体内の因子が関与し,それがCaと深く関わっているものと想定される。今後,このような因子の解明が大きな課題となろう。

4.Ca栄養条件の制御と土壌管理・施肥

(1)野菜畑におけるCa施用の問題点

 現在,多量の石灰質資材が野菜畑に投入され,一部では過剰傾向がみられているにもかかわらず,依然としてトマトの尻腐れやハクサイの心腐れなどCa欠乏が大きな問題となっている。これには,石灰施用が作物へのCa供給の目的ではなく,土壌の酸性矯正を主目的として行われてきたことや,土壌養分富化・アンバランス化が拮抗的にCa吸収を阻害していることなどが深く関わっている。

 さらに,作物のCa吸収には施用石灰資材の種類・量,施用方法,土壌水分条件,地温,蒸散,根の生長・活性などが大きく関与しており,作物のCa栄養条件の制御にはこれらの数多くの要因を考慮に入れる必要がある。

(2)緩効性肥料,有機物によるCa施用

 野菜ではCa要求量がイネなどと比較して多いことから,養分としてのCaを生育後期まで持続的に供給しうるような施肥技術が必要となる。その一つの方策として,緩効性Ca肥料(ロングショウカルなど)の開発・利用があげられる。すなわち,作物のCa吸収に応じたCa放出パターンを持った肥料が開発・利用されれば,Ca欠乏の防止とともに病害軽減の意味からも将来的に有用となろう。

 また,有機物に含まれるCaについても,有機物施用による病害の軽減にその関与が示唆されており,今後は有機物施用による作物へのCa供給の可能性についても検討してゆく必要があろう。

(3)土壌診断・栄養診断手法の開発

 これまで主に交換性石灰の値が土壌診断に用いられてきたが,それが充分量あってもCa欠が発生する事例が数多く認められる。そのため,作物のCa吸収に対応した新たな土壌Ca測定手法の開発ならびにその診断基準の策定が必要とされる。

 また,作物のCa吸収には,前述のように多くの要因が関与することから,作物のCa栄養条件を簡易・高感度にモニターできる新たな栄養診断手法の開発が望まれる。

5.おわりに

 近年,環境保全型農業に対する関心が非常に高まっており,土壌・施肥管理,病害防除ともに新たな観点からの技術開発が強く求められている。輸入野菜の増加,生産者の高齢化など野菜生産を取り巻く状況は厳しさを増しつつあるが,今後の研究・技術開発の進展による新たな野菜生産技術の確立を期待したい。